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縛られることに慣れ、いつの間にか浸かってた「ぬるい幸せ」になんか手を振ろう
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で・こ・つ・ん★ (GA文庫)
著者:野島けんじ
イラスト:しゅがーピコラ

神触人としての才能を認められ、女神を呼ぶことが出来る神触人を育成するための全寮制の『泉命女学園』へ編入が許された真心の妹・氷汐心愛。
妹を激しく狂おしいまでに溺愛している妹至上主義者の兄・氷汐真心。
泣き虫だが、「でこつん」すると最高の笑顔を見せてくれるかわいい妹を守るため、神触人のパートナー「神衣人」になりすまし(元々の神衣人は逃亡)、心愛に内緒で女学園へ潜入することにした!……のだが
野島けんじが贈る、女神召喚”でこつん”ラブコメディ


『お兄さん、わたしと入れ替わってみませんか?』
このマスク・ガールは、いったいなにを言い出すんだ?出発前の緊張で、思わず残念な発言をしてしまったのか?それとも、柳澤たちを殴ったときにはもう壊れていたのか?運命の男性が原因?真実の愛を知ったことで、脳回路がショートした?いろいろ考えた。
それでも……、「なに言ってんだ?」という言葉が口から出てこない。
運命の男性。真実の愛。それが、心からわかるから。
真心と心愛が兄妹になったのは、運命。
真心が心愛へ抱く愛は、間違いなく真実。
それがわかるから、感情のままにリップの想いを否定できなかった。
リップが、ドラゴンのプリントが施された仮面を、ググッと真心に近づけてくる。
「わたしだって、ヒロユキのことは必死であきらめようとしたんです。でも、できなかったんですう、彼のドレッドヘアが、彼の瞳が、彼の鼻が、彼の鼻ピアスが、彼の唇が、彼の舌ピアスが、彼の胸板が、彼の乳首が、彼の腹筋が、彼のヘソピアスが、彼の……」
「もういいって」
ヒロユキのことなんか、微塵も興味ナシ!
「とにかく、わたしには彼が必要なんです。どうかお兄さん、助けて下さい」
リップが、痛いくらいに真心の腕を握りしめてくる。
「助けてって……入れ替わりなんて、無理に決まってるだろ」
「やれるかどうかなんて考えず、とにかくやってみれば大丈夫です!」
「んなわけあるか!どんだけ楽観的なんだよ!」
「わたしは、このまま逃げることもできました。でも、心愛さんのことが気がかりで、こうしてお兄さんにお願いしてるんじゃないですか。わたしのワガママで、あんなに素直で可愛い心愛さんにご迷惑をおかけしたくなくて……」
「じゃあ、迷惑にならないよう、最後まで責任もってくれよ」
運命も真実も共感するし、心愛のことを「素直で可愛い」と評してくれたことは嬉しいけど、それと見逃すことはまた別問題だ。
だから、同情心をとりあえず横に置き、真心はいまいちばん大切なことを訊いた。
「リップさんが消えたら、心愛はどうなるんだよ?」
「次の神衣人が決まるまで、自宅待機を言い渡されるでしょう」
サラリと返された。
「おい、自宅待機って……」
以前、紅愛に聞いたことがある。神触人が召喚した女神を懸依させることができるのは、適合率が60%以上の、ごく限られた神衣人だけだという。しかも、女性オンリー。
神衣人の身体能力がどんなに優れていても、人間性がどれだけ素晴らしくとも、神触人が召喚んだ女神にはそれぞれ個性があるから、だれにでも自由に憑依させることはできないらしい。
ということは、リップがいなくなったら最初からまた、適合率の高い神衣人を捜さなければならなくなるというわけだ。
下手をすると、自宅待機が何年も続くかもしれない。
それは困る。
心愛はいま、もともとひと握りしかない勇気を振り絞り、新しい世界へ挑戦しようとしているのだ。兄として心配山盛りではあっても、応援してやりたいと心から思っている。なのに、自宅待機?出鼻を挫かれたら、モチベーションがガタ落ちだ。鉄は熱いうちに打たなきゃ意味がない。
リップの都合で、愛する心愛が振り回されるのは我慢ならない。
真心は、「ふざけんなよ」と小声でつぶやきながら、彼女をにらみつけた。
が、リップはまったく意に介した様子もなく、驚嘆に値する握力でギリギリと真心の腕をしめつけてくる。
「痛いって……」
「お兄さん、わたしは神衣人協会から派遣されたばかりの新米ですから、学園にはだれひとりとして知り合いがいません」
「だからなんだよ?ちょ、腕、痛いから」
「偶然にも、わたしとお兄さんって、身長と体格が同じくらいじゃないですか。仮面とローブを身につけて、手袋をビシッとはめれば、だれにもバレませんよ?」
「待て待て、そんなことできるわきゃねぇだろ。第一、声が違う」
「裏声でオーケーです。男っぽい声の女性なんて、ごろごろいますからね」
「裏声って、おい、無理に決まって……オレ、男だし……」
「無理だと思うから無理なんです。ここまできたらチャレンジあるのみ!わたしもチャレンジします。わたしは彼への愛を、お兄さんは心愛さんへの愛を貫きましょう!とにかく、このメモを読んで下さい」
リップが、真心に小さな手帳を押しつけてきた。花柄マークがちりばめられた、女の子らしい文房具である。
こんなモノを用意していたということは、入れ替わり作戦を前々から考えていたに違いない。ずっと思い悩んでいたものの、出発直前になって迷いを断ち切り自らにゴーサインを出したのだろう。
だが、ここで押し切られるわけにはいかない。心愛の将来がかかっているのだ。
「オレには、インターハイにむけての練習があるんだよ。あんたと入れ替わって泉女にいけば、いつ帰ってこられるか……」
「確かにインターハイも大切でしょう。でも、それで人生が変わりますか?お兄さんはプロボクサーになりたいんですか?」
「プロになるつもりは、まあ、ないけどさ。インターハイなんて、いましかないだろ?」
「心愛さんだって、いましかないんです。もちろん、わたしにとってもいましかチャンスがありません。心愛さんとわたしは、人生を左右するような局面ですが、お兄さんはどうなんです?インターハイは、あなたの人生を左右するような大会ですか?」
リップにぐいぐいと体を押され、真心は壁際まで追い込まれてしまった。彼女の必死な気持ちが、ビシビシ伝わってくる。
真心は、それでも言った。
「心愛とリップさん、適合率がいいんだろ?代わりなんて……」
「家族だったら、性別間わず適合率が高くなるんです!」
「ほんとかよ?」
「う、噂……ですけど……」
「噂って……おいおい……」
泉命女学園は天下にその名を知られた超有名女子校なのだ。そこに男が紛れ込めばどうなる
か......。
きっと、紅愛と心愛の両方に迷惑をかけることになるだろう。娘たちの成長を願う両親にも。リップには悪いけど、男が仮面とローブで正体を隠し、女子校へ入り込むなんて非現実的な発想だ。真心は、リップに花柄手帳を突き返した。
「無理だって」
「どうしても、ですか?」
リップが、手帳を力なく受け取る。
「常識で考えてみろよ」
「……ですよね。入れ替わるなんて、とんでもない話ですよね」
「だろ?」
「……すみませんワガママ言って。わかってたんです。儚い恋だって……ちょっとトイレいっ
てきていいですか?」
肩を落とし、項垂れ、ドラゴン・マスクから負のオーラをにじませながら、リップが女子トイレの中へ入っていく。周囲の人たちに、ぎょっとした顔をむけられながら……。
可哀相だな、と思うけど……。
真心は、リップの背を見つめながら、大きく息をついた。
彼女にいてもらわないと、心愛が困る。真実の愛より、妹の神触人デビューのほうがずっと
ずっと大切なのだ。
真心は、胸の前で手を合わせた。
ごめん。
五分待った。
リップはまだ、女子トイレから出てこない。姉と妹がいる真心だから、女子トイレには有名ラーメン店も顔負けの行列がつきものだということくらい知っている。
でも、そんなにならんでるようにも見えないけど……。

ラブコメです。妹ラブです。姉も絡んできます。次巻くらいではきっと他の神衣人・神触人も絡んできてくれるでしょう(^^


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