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狼と香辛料〈11〉Side Colors 2
著者:支倉凍砂
イラスト:文倉十 

ロレンスたちがケルーベまで追うこととなった美しき女商人エーブ。貴族だった彼女が、いかにして今のような商人となったのか。"もうひとりの狼"エーブの過去を描く、読みごたえ満点の書き下ろし中編『黒狼の揺り籠』。
ホロとロレンスが立ち寄った村では、村人が諍いを起こしていた。そこでホロが思いついた驚きの解決法とは!?
旅の一幕を描く短編『狼と黄金色の約束』。
晴れた日、一枚の地図を見ながらポロとロレンスが思い立った寄り道と、その顛末を描く短編『狼と若草色の寄り道』。

狼と香辛料〈11〉Side Colors 2

狼と黄金色の約束

北、東、南、西。
四つの方向全てに祈りを捧げ終わる頃には、きっと少年がこの世で知る限りのあらゆるご馳走の名を胸中で唱えたことだろう。
「んむ。ご苦労様。では、クローリィ」
いよいよだ。
クローリィは従順な仔犬のようにホロのほうを見た。
「天使や精霊様は笑顔が好きじゃ。にっと笑ってみよ」
素直な少年は、これ以上ないほどににっこりと歯を見せて笑った。
ひゅ、となにかが風を切ったのはその瞬間。パン!とすごい音がしたのは、その直後だった
「っ!」
周りで事の推移を見守っていた村人たちが、一斉に息を飲んだ音が聞こえた気がする。
全員が全員、度肝を抜かれてその光景に釘付けになっていた。
ポロは手をぷらぷらさせて、苦笑い。手加減なく、本気でやったのだろう。少年を笑わせたのは舌を噛まないため。
いきなり全力で頬を張られた少年は目を点にして、鼻血を拭くことも、体を起こすことすら忘れて、つい今しがたまで天使のように優しかったホロのことを見つめていた。
「人の記憶は曖昧でも、一生涯忘れることのできぬ瞬間というものは確かにありんす。勇敢な少年クローリィは、きっと何十年後も、今この瞬間のこの場所のこの景色を、決して忘れぬことじゃろうよ」
ホロが村人たちに向かい、笑いながら言うと、最初に起こったのはざわめきだった。
それは彼らがようやく我に返ったからで、すぐさまそれは大騒ぎになり、やがて笑い声へと変わっていった。
彼らはこの村にやってくる時に、きっと自分たちの住みなれた土地を出てきたはずだ。
新しい土地に向けての旅立ちの前、不安と期待に心揺さぶられ、村のはずれ、あるいは町のはずれで故郷を振り返ったに違いない。
それから、北、東、南、西、としっかりと目に焼き付けて、旅立ったに違いない。
だから、彼らは尋ねられればこのように力強く答えることができるはずだ。
自分が故郷を振り返るために立ち止まったあの場所を、今でも寸分違わず正確に示すことができる、と。
「この儀式に異議のある者はその手を挙げよ!」
村長が叫ぶと、村人たちは一度静まり返り、「ありません!」と声を合わせた。
口々に神とホロの叡智に感謝の言葉を捧げ、踊り出す者まで出る。
少年の下に歩み寄ったのはホロと村長、それに他ならぬ母親で、手を取られ、体を起こされると少年はようやく事態が理解できたらしい。
火がついたように泣き出して、立派な恰幅の母親にすがりついて泣きじゃくった。
「わっちのおった村ではこれを平手ではなく石でやるんじゃがな」


狼と若草色の寄り道

流れを慎重に見極めていた、ホロの勝利だ。
「お前には敵わない」
「当然じゃな」
もそり、と身じろぎして、直後にポロの狼の耳が小刻みに震えて、欠伸が聞こえてきた。
「ほれ……わっちが一番好むことを言ったんじゃ。なにか、話してくりゃれ?」
こんな子供っぽいことをねだられているのに、手綱を握っているのはホロなのだ。
ロレンスは悔しくてたまらないが、嫌な気がしない理由はもちろんよくわかっている。仕方ないので晩飯の候補の話をしてやった。
いつもと同じ、味気ないパンと干し肉と、干した木の実の食事。森の中を走ればもしかしたら鶉や兎が獲れるかもしれない、と話した時のホロの耳の立ち方には笑ってしまった。
そんなことを取りとめもなく話してやっていたら、やがてホロは寝息を立てていた。
ついさっきまではロレンスのことを手玉に取り放題だった狼は、遊び疲れたといった風情だ。
そんなホロを見ながら、いつか自分も流れを上手に掴んでホロの優位に立つことができるのだろうか、とロレンスは思う。
草原の上ほど暖かくはないが、二人で一つの毛布の下にいれば勝るとも劣らない。
子供のように、少しだけ体温の高いホロと一緒にいるとなおさらだ。
しかし、寝ている時はこんなにも無防備なのに、と思わなくもない。
鼻をつまんだって起きないだろうし、産毛に覆われた耳の中に指を突っ込んだって平気かもしれない。
散々滅多打ちにされたロレンスは、あんまりにも無垢な寝顔を見てそんな復讐心を心の内で弄んでいた。
すると、神の思し召しかもしれない。
ふと少しホロの体勢が崩れそうだったので、ロレンスはそれを支えがてら、ささやかな反撃に出た。
こっちがお前の保護者なんだぞ、と示すように、ホロの細い肩に腕を回して。
そして、自らも目を閉じようとした、その瞬間だった。


黒狼の揺り籠

しかし、ミルトンは信じてくれなかった。
「お嬢様」
オーラーの声に目が開くのは、ほとんど訓練された犬の反応に近い。
あるいは、その声がいつも自分の困難の時には支えになったからかもしれない。
ただ、今、そこにあるのは、自分を安全なところにまで導いてくれたオーラーの顔ではない。
険しい顔つきの、一人の老人がそこにいた。
「お嬢様。ご決断ください」
泣くことすら忘れて、聞き返した。
「決……断?」
「左様でございます。このままむしられ、盗られ、足蹴にされ、泥にまみれたまま生きていく
のか、さもなくば自らの力で立ち、歩いて進んでいくのか」
それがなにを意味するのかはわかる。
このまま商人を続けるのならば、服を取り返せということだ。
「お嬢様!」
オーラーが怒鳴ったのは、顔を背けようとしたからだ。
叱られた犬は、怯えながらも視線をそらせない。
「お嬢様。私がお嬢様を商人の世界に連れ出したのは、お嬢様が哀れだったからでございます。ただそこにいるのが役目でありながら、そのせいで、流され、堕ちるに任せるほかなかったお嬢様が。私はお嬢様に機会を差し上げたい。一人で立ち、歩くその機会を」

 

次回は長編らしいので楽しみです

狼と香辛料〈11〉Side Colors2 (電撃文庫)

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