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縛られることに慣れ、いつの間にか浸かってた「ぬるい幸せ」になんか手を振ろう
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ロウきゅーぶ!〈2〉 (電撃文庫)
著者:蒼山サグ
イラスト:てぃんくる

 部長のロリコン疑惑から一ヶ月、ようやく周囲の噂も落ち着いてきた今日この頃。
バスケへの想いを再燃させてくれた大恩ある少女たち五人のため、昴は再び慧心学園バスケ部のコーチに返り咲く。
そして彼女たちのさらなる成長を目指し、小学校で合宿を行うことになったのだが、解決しなくちゃいけない問題は山積みで。
「ふぁ……見てる。昴さんが、こっちっ」
「ひな、おにーちゃんに見て欲しいなー」
「……まー、すばるんもヒトノコだしな」
「えへへ。紗季ちゃんはどうなのかな?」
「ちょっと私まだそういうのは興味がっ」
それ以上に色々な意味での問題が山積みでして!?

木陰からもう少し距離を取り、柔剣道場脇のベンチに腰掛けて遠巻きに真帆を見守る。
座ってから七本のシュートを数えた頃、後ろからゆっくり静かに人の気配が迫ってきた。
「智花」
すとんと隣に座り込んだ少女の顔を視界に収め、笑みを交わし合う。ピンク色のパジャマ姿で、春たく季節とはいえ少し寒そうだった。
「……もう、寝てた?」
「はい、ひなたがお風呂ですっかり熟睡しちゃって、みんなで着替えさせるのが大変でした。あはは。……でも私はちょっと、すぐ眼が覚めてしまって、それでお布団の中で考え事してたら竹中君が帰ってきて、小さい電気だけ点けて奥まで案内して、戻るとき隣を見たら真帆がいなくて、それで外に出てみたら……ふふ」
「……ごめんな」
「ふぇ?」
「寝付けなかったの、俺のせいだろ。相談、持ちかけちゃったから」
「ぜんぜんです。頼って頂けて嬉しいですし…………昴さんには、本当に感謝してます。私、みんなと一緒にいられれば、それだけで満足だって思ってましたし、それは今もそうなんですけどー」
智花は言葉を一度止め、遠くの真帆を優しい瞳で見つめる。
「―でも、やっぱり。嬉しいみたいです、すごく。友達がバスケ、頑張ってるところを見るのって。……昴さんが来てくれたから、みんなやる気になって、私も嬉しいんです。本当に、ありがとうございました。……できれば、これからもよろしくお願いします。……これからも、ずっと」
はにかむ智花の声は次第にフェイドアウトしていき、最後の方はほとんど聞こえなかった。
けれども、彼女の気持ちはちゃんと受け止められたと思う。
「……真帆は、どのみち頑張っていたと思うけどな。……ううん、真帆だけじゃなく、みんなか。でも、うん。俺だって嬉しいよ。バスケに一生懸命な子たちと出会えたおかげで、俺も頑張れる。智花に、そしてみんなに……俺だって感謝してる。……だから、今もここにいるんだ。はは。だって合宿なんて、賭けの約束には入ってなかったしな」
「昴さん。……えへ」
見つめ合って、照れくさくなって。二人して目を逸らす動きがシンクロする。
それからは、無言。ただ黙って、月明かりに伸びる真帆の白い腕を見つめ、壁に跳ね返ったボールが震える音を聞く。そんな時間が、長らく過ぎる。
「たぶん、大丈夫だと思う」
顔から火照りが引いた頃、ゆっくりと眩く。
「えっ?」
「真帆と、竹中。きっと何とかなるよ。だから智花。今夜は安心して、眠ると良い」
「……よかった。ふふっ、実はさっき竹中滑の顔を見たとき……そうなのかなって、ちょっとだけ思いました」
ふうっと智花が長い息を吐き、そこで再び言葉が途切れた。
真帆のシュートは、まだまだ続く。たぶん、合計で二百本打つつもりなのだろう。ちょっと頑張りすぎかな、とも思うけど。
あの子が自分で選んだ数だ。尊重して、見届けることにする。

「……弱ったな」
それから何分か経った頃。真帆は跳ね返ってきたボールを拾うと、不意にごろりと芝生の上に仰向けになった。どうやらノルマが終了したらしい。
そこで、もういい加減夜も遅いし迎えに行って労ってやろう……と腰を上げかけたところ、
「……あれ、智花?」
ふと横を見れば、パジャマの少女は柔らかく眼を閉じて、聞こえてくるのはすうすうと穏やかな吐息。……なるほど。どうりでさっきから左半身に淡い重みが伝わってきてたはずだ。
いやはや、これでは下手に動けない。ならば仕方あるまいと、真帆が戻って来るのを待って一緒に帰ろうと思い直したのだが、
「って、うわー。あっちもか……」
もう一度目をやれば、時計塔の壁際でシャツをはだけ、おなか丸だしで大の字になった真帆が、いつの間にやら遠巻きでも分かるほど大らかな一定のリズムで横隔膜を収縮させていたのだった。
「……弱った、な」
まずいそ、あの汗だくヘソ出しは。早く何とかしないと風邪を引かせてしまう。
しかし智花が今まで寝付けなかったのも俺の責任なので、起こしてしまうのは実に忍びない。
―長谷川昴、ここに進退窮まれりである。

「……で、こんな折衷案を選んでみたものの」
大失敗だった。
追い詰められた俺はまず智花を起こさないようにおぶり、真帆の許へ。それから二人目の膝裏と背中に腕を差し込んで持ちあげ、両者を一度に小屋へ運ぽうと試みたわけだが。
うん、これ、新手の筋トレ方法として商標登録してしまいたいくらいキツイ……。
おんぶと言えども後ろの智花は手足を回してくれているわけでもないので、俺は落とさぬよう思いっきり前傾せざるを得ず、そんな体制だと真帆の体は腕の筋肉だけで支えなくてはならない。いくら細身の小学生女子とはいえ……この抱え方では重い……重すぎる。既に二の腕はぷるぷる、智花はふらふら、限界が近いのに否応なしに歩みは牛歩を強いられる。……鳴呼、三途の川が見えそうだ。
「たすけて……誰か」
無意識に声が漏れる。

―ぎゅ。

なんと、神の思し召しか。後ろの智花が急に、抱き枕にするように俺の首筋と腰へしがみついてきてくれた。……助かった。これなら、なんとか。
「――って、もしかして智花、起きてる?」
小声で訊いてみたが、返事はすうすうと吐息のみ。……やっぱり偶然の助けか。
「ん、とにかくありがと。……はは。智花って、幸運の女神様かもな。俺にとって」

―ぎゅ。

もう一度強く、智花が身体を押しつけてくれたような気もしたが……既にあちこちの筋肉が限界で、それどころではなかった。

交換日記 (SNS)05- ◆Log Date 5/20◆
紗季『はーい、緊急会議はじめまーす。』
あいり『は、はいっ。』
紗季『お、珍しく積極的ね。良い事よ。では香椎愛莉君。』
あいり『えへへ。智花ちゃんは起きていたと思いますっ。』
紗季『ふむ。証拠はありますか?』
あいり『入ってきたときはぎゅうってしてたのに、長谷川さんがお布団に下ろそうとしたときすぐに離れちゃったからです!』
紗季『うん、君もなかなか観察眼が備わってきたわね、満点です。……ふふ、完壁に狸寝入りね、あれ。気付かなかったのは、たぶん長谷川さんだけ。』
湊智花『ちょ、ちょっと!濡れ衣だよっ!』
紗季『あらあトモ、ずいぶんとお早い反応で。みんなマナーモードなのにね、今。』
湊智花『……あ。』
あいり『えへへ、良いなあ智花ちゃん。……でも、本当はお姫様だっこの方が良かったよね、智花ちゃんも。真帆ちゃん羨ましいなあ。ぐっすりで覚えてないのだろうけれど。……ちょっと、もったいないかも。』
湊智花『ち、違うのっ!最初は本当に寝ていたのだけど途中で眼が覚めて、その時昴さんがすごく真剣だったから、邪魔しちゃダメって思って……!それに私、お姫様だっこなんて……別に興味……っ!』
紗季『はいはい。今度直接お願いしてみると良いわよ、『抱いて下さい!』って。ふふふふふ。』


ロウきゅーぶ!〈2〉 (電撃文庫)です。
合宿です。お泊まりです。だんだんスキンシップが増えております。
ひなたちゃんのパンツも手に入ります。
幼なじみも絡んできます!
スポーツコメディなんです!


ロウきゅーぶ!〈2〉 (電撃文庫)

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