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迷い猫オーバーラン!〈6〉拾った後はどうするの? (集英社スーパーダッシュ文庫)
著者:松 智洋
イラスト:ぺこ

 大吾郎と珠緒のラブラブにあてられて、文乃、千世、希は羨ましいと思いつつ、まだ牽制しあうばかりの日々。
そんな中、夏帆の活躍で同好会は盛り上がっていく。
卒業式を経て、同好会は卒業旅行を計画。しかし、そこには夏帆の危険な思惑が。
唯一、夏帆の策謀に気づいた文乃の孤独な戦いが始まる!?同好会の命運はいかに。
文乃の親友、叶絵が投げつける課題に巧はついに、男の決断を迫られる!?

 「いいわけないでしょうが……」
顔を上げると、そこにバスタオルを巻いた魔王がいた。
「ふ、文乃!?いや、これは、違うんだ!」
「なにが違うってのよこの変態!二回死ねええええええええ!」
怒鳴り声と同時に飛んできた桶が俺と家康を撃沈する。
かくして勇者たちは魔王文乃の強大な魔力の前に散るのだった。
「まったく!ぜんぶ丸聞こえなのよ!」
文乃は鼻息荒くつぶやくと、ふたたび湯舟に浸かった。
「ていうか、あいつらバカなの?死ぬの?」
怒りが収まらないのか、文乃は湯舟の中で足をジタバタさせる。
「私は巧がこっち来てもかまわないけどー」
「乙女さん!」
「……にゃあ。わたしも別にかまわない」
「の、希!?」
「私も大ちゃんとなら……きゃっ♪」
「み、みんなどうかしてるわ……」
「いいじゃん、裸のひとつやふたつぽーんと見せちゃえば。そしたら巧っちも、草食系男子の皮を脱ぎ捨てちゃうかもよ」
「か、かか、叶絵!」
いつの間にか自分の方が少数派になっていることに文乃は驚愕する。
だいたい、みんなはどうしてそう平然としていられるのか。
こっちは露天風呂に来てからというもの、あの薄っぺらの今にも壊れそうな柵が気になって仕方ないというのに。あの柵の向こう側に巧がいる。
なんだか、それだけで恥ずかしいような……。
そういえば、さっきは夢中だったけど巧、裸だった!? 
うあああっ、あたしってばなに考えてんのよ!
「おやあ、文乃さん、なにを思い出してニヤニヤしてるのかなあ?」
「な、なにも思い出してないわよ!」
「またまたあ、素直になりたまえよ。しばらく見ない間にすっかり逞しくなっていた幼馴染みの肉体に劣情をもよおしたと」
「れ、劣情……変なこと言うな!」
文乃に怒鳴られても叶絵はけらけらと笑って意に介さない。
「文乃はわかりやすいねえ。ほれ、千世ぽんもなんとか言ってやんなよ」
「……」
「って、あれ?」
干世は、湯舟から顔の上半分だけをのぞかせてなにやらひとりでブツブツと咬いていた。
叶絵が呼びかけても気づいた様子がない。
「おーい、千世ぽーん?」
「なんか……ずるい。みんな……おっきい……希すらも……くやしい……」
「はあ?」
叶絵が呆れているのも無理はない。小学生にしか見えない金髪の美幼女は、湯船に浮く大小様々な形のいいおっぱいに、男子以上の衝撃を受けていたのだった。
「くっ……くうううっ、くじけちゃ駄目よ。あたし!いつかきっと、あたしだってぽいんばいーんのぼっきゅっぼーんに……そして目指すはエベレスト最高到達点……乙女越え!」
乙女の大きく形のいいおっぱいを親の仇みたいに睨みつつ、ひとり身悶える千世であった。
「はあ……」
ひとり騒がしさから逃れて、夏帆は密かに溜息をつく。
どうも勝手が違う。みなのテンションについていけない。
それに普段のお風呂は、基本的に湯殿担当のメイドたちに任せていれば全身を綺麗に保ってくれるし、マッサージに保湿クリーム、その日の気分によってはハーブのサウナに岩盤浴までその場で指示できる。リラックスする音楽をかけて、静かな時間を過ごすのが日課だった。
考えてみれば、自分で身体を洗ったことなど学校で行われる修学旅行の時くらいしかないし、その時だって他の生徒は夏帆が入浴している間は遠慮して入ってこないくらい気を遣っていた。それが当然だと思っていた。
なのに、今は会話に加わるタイミングすらはかれずにいる。
「夏帆?どうかしたの?」
「え……いえ、なんでもありませんわ」
ハッと我に返った夏帆は、心配そうにこちらを見ている珠緒にいつもの笑顔を返す。
大勢でお風呂に入るなど、夏帆には生まれて初めてのことだった。
自分がひどくか弱くて無防備な存在になったような気がする。
「むっふっふっふ……えいっ♪」
「ひゃあ!?」
突然、誰かに後ろから胸を掴まれて、夏帆は思わず悲鳴を上げた。


「な、なにをなさいますの、乙女さん!」
「えー、だって、女の子同士でお風呂に入ったらこうするのが礼儀でしょー」
礼儀?他人の胸を触ることが?
まったくもって理解不能だ。そんなことをしてなにになるというのだろう。
「うーん、夏帆ちゃんもなかなかおっきいねえ」
乙女はさっきの感触を思い出すかのように、わきわきと指を蠢かせる。
「ほほう……それは気になりますな」
すると、鳴子叶絵が乙女に続けとばかりにジリジリと夏帆に近づいてくる。
その手をいやらしく動かしながら。
「夏帆の胸、気持ちいい?」
「うん。柔らかくって、でもしっかりとした弾力があって……」
乙女の感想をふんふんと頷きながらしばし聞いていた希がくるりと振り返る。
「……わたしも触る」
「ええ!? ちょ、あの、みなさん、どうか冷静に……」
夏帆が必死に訴えかけるものの、目に妖しい光をたたえた希と叶絵はジリジリと距離をつめていく。あきれ顔の文乃や微笑ましげに見守る珠緒も止めてくれそうにない。
「あ!私、少しのぼせてしまったみたい、お先に上がらせてもらいますね」
「逃がすかー!」
叶絵が飛びかかり夏帆を羽交い締めにすると、すかさず希が正面に回り込み、おもむろに夏帆の胸を揉みしだいた。
「きゃっ!?」
「いかがですか、希先生!」
「……にゃあ」
「おお!希先生が喜んでいらっしゃる!」
「い、いやあああああああっ!?」
雪に覆われた竹馬園家の広大な土地に、その一人娘である夏帆の悲鳴が響き渡った。
そして訪れる、一瞬の静寂。
「……びっくり」
真っ赤な顔をしておっぱいを押さえ、湯船にあごまで沈んだ夏帆に視線が集中していた。
「大きな声、出せるんだね」
と、優しく含み笑いしながら珠緒がみんなの言葉を代表した。
「あ……あの、は、はしたないことをいたしました……」
「いーじゃん。夏帆は悪くないって!おっぱいで遊ぶコイツらが悪いのよ!おっぱい禁止!特にでかいおっぱい禁止!小さくてもおっぱいはおっぱいなんだからねーっ!」
「夏帆も、Dカップ以上」
「にゃにいーっ!撃って撃って撃ちまくれ!周りはだいたい敵だ!」
希の計測を聞き、バシャバシャとお湯をみんなにかけながら叫ぶ悲しい千世であった。その背後にメイドさん二人が現れて暴君を抱きすくめるように優しくたしなめた。
「まあまあ、大丈夫ですよ。お嬢様。すぐに大きくなりますから。たぶん」
鈴木さんと佐藤さんもいい感じに肌を桜色に上気させ、温泉を堪能している風情だ。いつから一緒に入っていたのか、誰にもわからなかったが。
「ちなみに鈴木はCカップ、佐藤はBカップ。これが日本人の平均ですわ。でも、迷い猫同好会の平均はD以上ですわね。ファイト、お嬢様。鈴音牧場の牛乳、毎日飲みましょう!」
ぐ、っとガッツポーズをする鈴木さんと佐藤さんに、千世の怒りが爆発した。
「Aカップ以外のおっぱいを法律で禁止するぅー!マニフェストに載せない政党には献金しないって全政党に伝えておくようにーっ!あたしは本気だああっ!」
大騒ぎの千世と大笑いのメンバーたち。そんな中で、夏帆は初めての屈辱を感じていた。
「……私が……大声を……」
夏帆の内心の暴風に気づいていたのは、ただひとり。
彼女を警戒する、芹沢文乃だけだった。そして、事態は動き出す。


迷い猫オーバーラン!〈6〉拾った後はどうするの? (集英社スーパーダッシュ文庫)です。
三学期です。卒業です。卒業と言えば卒業旅行です。卒業旅行と言えば温泉です。
温泉と言えば進路です。あれ?
巧の進路は?夏帆を中心に一波乱起きます。
 


迷い猫オーバーラン!〈6〉拾った後はどうするの? (集英社スーパーダッシュ文庫)

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