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迷い猫オーバーラン!〈4〉みんな私が拾います (集英社スーパーダッシュ文庫)
著者:松 智洋
イラスト:ぺこ

クリスマス直前。ケーキ作りに聖夜の芹沢教会でのチャリティー企画に、迷い猫同好会は大忙し。
文乃。千世、希は、牽制し合いながら巧へのプレゼント選びに余念がない。
そんなある日、巧の姉、乙女が新たな迷い猫を拾ってくる。それは金髪の美少女?だった。
クリスと名乗る迷い猫が持ち込んだ大騒動に、乙女の愛が炸裂する!乙女と巧の思い出の日に、新しい奇跡は生まれるのか。三人娘の恋の行方はいかに?


「なんだ、やけに疲れてる顔だな」
教室に駆け込んできた俺や文乃、そして梅ノ森の顔を見て、家康が言った。
「どうした?また乙女師匠がなんか拾ってきたとか?」
「そのまさかだ」
「うそん、マジで……?」
家康も冗談のつもりで言ったんだろうけど。
「この状況で新キャラか。ってか増えすぎじゃねー? 今度はなんだ?いや、待て、当ててみせる……うーん……はっ!わかったぞ、今足りないのは、そう!メガネっ娘だ!」
「おまえが何を基準に足りないとか言ってるのかはあえて追及しないが、ハズレ」

「金髪よ金髪。しかも年端もいかない女の子」

俺がもったいぶっていると、梅ノ森があっさりバラした。
「金髪ロリ美少女!そっちできたか!梅ノ森と被ってるようにも見えるがさにあらず。梅ノ森は神聖なロリ道に反した見た目だけ幼女だ!やはり正しくは十二歳以下!」
そっちってどっちだよ。梅ノ森も怒るより呆れて溜息をついている。
「さすがは乙女師匠。古典的でありながらも強力なキャラクター配置。たぶんそのロリっ娘は実は吸血鬼とか、どっかのお姫様とか、ナイスな設定があるとみたね」
ないって。つーか、現実とギャルゲーを混同するな。可哀相な人みたいだぞ。
「個人的には一人称『わらわ』が好みです。その方向でみなさん動いて下さい。いいですね」
「……おまえ、そのノリで話しかけたりするなよ?なんか儚げな感じの子だったから」
「わーってるわーってる。任せておきなさい」
ほんとにわかってるのか疑いたくなるような調子でうんうん頷く。
「今回はどんな事情なのだ?」
「それが、さっぱりわからないんだよ。どうも人見知りするみたいであんましゃべってくれないし。そもそも俺じゃ言葉が通じるかどうかも怪しい」
これは、苦労するかもなあ……まあ、ウチの店だと通訳には事欠かんが。
「巧……」
俺が渋い顔をしていると、希が不安そうに顔を覗き込んできた。
「心配しなくても、事情も聞かずに無理に追い出したりはしないから。おたがいさまだしな」
「……うん」
俺が笑って言うと、希は嬉しそうにうなずいた。帰ったらまずはコミュニケーション手段の確立だな。そしたら、一緒に飯を食おう。すべてはそこからだ。

「ただいまー……って、あれ?」
学校から帰ると、店はもぬけの殻だった。
「まさか……姉さん!?」
慌ててリビングに駆け込むと、テーブルの上を確認した。
「置き手紙はない……か」
ホッと安堵する。
「そういや、クリスもいないな」
姉さんがクリスを放って出かけるわけないし、二人で買い物にでも行ったのかな。
「うーん、ならせめて店をいつもの良心市モードにしといてくれりゃいいのに」
ご町内の善意に頼った良心市モード、すなわちお客さんに勝手にお金を払って商品を持ち帰ってもらうシステムは、売り上げこそふるわないが今までのところ、一度も泥棒などの被害に遭ったことのない我が店の命綱である。隣近所の皆様のご協力あってこそ可能な荒技だ。
しかし、どこに行ったんだろう?
「巧」
希が風呂場の方を指さしていた。耳をすますと水の音、それからかすかに話し声がする。
「なんだ、風呂か」
クリスと一緒に風呂に入ってるのか。良かった良かった出奔じゃなくて。
「一緒にお風呂……羨ましい?」
ホッとしている俺を何を誤解したか、じーっと見つめていた希がそんなことを言いだす。
いくら金髪碧眼美少女でも、それは俺を変態扱いしてるのと変わりないって、希。
「……後で一緒に入る?」
「だ、だだだ、誰とっ!?」
「わたしと巧」
「は、入らん入らんっ!俺は一人で十分だっ」
本心としては、ぜひよろしくお願いします!と頭を下げて頼みたいが、それはデビル巧の囁きで、エンジェル巧としては絶対に折れちゃいけない男の於持である。
「そう。じゃあ、この子たちと入る」
まとわりつく猫たちを抱え上げ、希はくすりと笑った。なんて羨ましいんだ、お前たち。俺も猫なら良かったのに。……いかん脱線した。今、目の前にある問題は、姉さんとクリスが一緒に風呂に入ってるのかってことだ。そっと、脱衣所のドアに身を寄せてみる。
耳をすませば、姉さんが歌っている調子はずれの鼻歌が聞こえてくるような……。
『ぎゃああああああっ!』
いきなり甲高い悲鳴が響き渡った。
「姉さんの声じゃない……クリスか!」
俺は大急ぎで風呂場へと走った。
風呂場の扉がもの凄い勢いで開いて、中から小柄な体が飛び出してきた。
「た、助けてっ!シャンプーは嫌いなんだよ!せめてシャンプーハッとを……」
英語で何かを叫びながら転がるように飛び出してきたのはクリス。

「ん?」
なにか、クリスの足と足の間にとっても見慣れた物体があるんですが。

迷い猫オーバーラン!〈4〉みんな私が拾います (集英社スーパーダッシュ文庫)です。
巧のハーレムに一名追加です。クリスです。金髪碧眼美少女(?)です。
金髪碧眼美少女(?)なのにツインテドリルじゃありません。
Chris.jpg
聖歌を歌うクリス

もうやだ三次元」とってもよい言葉ですね。


迷い猫オーバーラン!〈4〉みんな私が拾います (集英社スーパーダッシュ文庫)

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