縛られることに慣れ、いつの間にか浸かってた「ぬるい幸せ」になんか手を振ろう
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恋する乙女と守護の楯〈上〉―The shield of AIGIS (集英社SD文庫)
著者:和泉フセヤ
イラスト:瀬之久史本
要人護衛組織『アイギス』に所属する新人エージェント・如月修史に下った新たな指令、それは『女装して全寮制女子校に潜入し、女学生として生活しながら対象を護衛せよ』という無茶な内容だった。
嫌がる修史だったが、無理やり女装させられ、山田妙子として禁断の花園に投入される。そこで出会うのは淑女の中の淑女・春日崎雪乃、スポーツ万能少女・椿原蓮、小悪魔的策略家・新城鞠奈をはじめとする女の子たち。
修史の奇妙な学生&護衛生活が始まった!
「彼女が今日転入してきた山田妙子さんです」
「そうですか……」
中央の学生が短く答える。
さっき返事したのは彼女らしい。透き通るような、美声だ。
「山田さん、彼女が会長で三年生の春日崎雪乃さんよ」
麗美が紹介する間、修史は、その美声の持ち主の、いや警護対象の顔を見ようと、目を凝らしていた。
「は、はい」
一拍遅れて返事をする修史の後ろで麗美が電灯のスイッチを入れたのか、立ち上がった雪乃の顔がはっきりと見えた。
「私が、会長の春日崎雪乃ですわ。ようこそセント・テレジア学院へ」
優雅な笑顔の雪乃に見つめられ、修史はなぜか全身を射抜かれたような気がした。
「それから、向かって右側の彼女が副会長の椿原蓮さん」
麗美が手を差し出すのに合わせ、蓮が頭を下げた。
「教室ではお声を掛けずに申し訳ございません」
「い、いえ、こちらこそ」
やはり蓮も、雪乃とはまた違った笑顔で修史を見ている。
二人とも本部で見た写真よりも実物のほうがずっと美人に見える。
「ようこそ撫子会へ。歓迎します。副会長の椿原蓮です」
「よ、よろしく……です」
ショートカットの蓮は一見、快活そうに見えたが、実物は幾分か落ち着いた印象である。
「そして彼女が新城鞠奈さん。撫子会では会計を担当してます」
麗美が向かって左側の学生に手を向ける。
「初めまして、妙子様。一年の新城鞠奈と申します」
鈴を転がす様な声とはこの事か、と修史は思った。他の二人よりも幾分身長が低く、あどけない顔がどことなく高価なアンティーク人形を思わせた。
髪を両側で結った、入形のような鞠奈がペコリ、と頭を下げた。
鼓動が早まる胸を抑えつつ、修史も頭を下げる。
三人とも女性嫌いの修史も認めてしまうほどの美少女だ。それに気品もある……。クラスメイトの真田設子と同じ雰囲気を感じる。
「こちらこそ……。ところで、学生会のことを撫子会と呼ぶんですよね?」
「はい、その通りですわ。セント・テレジアの学生会は、撫子会と呼ばれておりますのよ」
先ほどと変わらず、鈴を転がすような声で鞠奈が答える。
奇異に聞こえる名称だが、いわゆる通称というやつか、と修史は納得した。
(大和撫子、のナデシコか……)
「さて、と。お伝えしていた通り、山田さんも撫子会に入るので、仲良くしてあげてくださいねー」
麗美がボン、とその背中を軽く叩くと、修史は条件反射的に頭を下げた。
「よ、よろしくお願いします、です」
「勿論ですわ。お友達が増えて嬉しいわ」
「撫子会が三人きりなのは少々寂しいと思っていたので、大歓迎です」
「よろしくお願いいたします、妙子様」
三入の歓迎の言葉を聞いて修史は少し安堵した。こんなおしとやかなで優しそうな女の子たちとなら、なんとかやれそうかもしれない、こちらも徐々に慣れるとして、距離を置いての護衛なら可能だ、そう思った。
「それじゃー、あとは若い者同士で~。山田さん、ではまた~」
「は、はい」
右手をひらひらと振り、麗美が部屋を出た。
「ご苦労様でした、星野先生」
雪乃が、その背中に頭を軽く下げる。
麗美が出て行ってからも三人は静かに笑みを浮かべていた。
が、しばらくするとその顔から笑みが消えた。
「……行ったわね?」
「ああ、行った」
麗美の足音が遠のいていくのを聞き届けると、蓮が雪乃に頷いて見せた。
三人の笑顔が一転して気だるそうに見え、口調も先ほどと少し変わっている。
「あー、肩凝ったぁ」
鈴を鳴らすような声だったアンティーク入形が、疲れ果てたような声で、まるで『やってられない』といった顔で肩を大きく回した。
「……へ?」
その様子を見て修史はしばし呆気にとられた。
(あれ?)
「ふーっ」
大きな溜息をついて、雪乃が玉座のような椅子に腰掛け、白く細い足が露出するのも構わず大きく脚を組み出した。その隣では、蓮が大口を開けて欠伸をしている。
修史には彼女たちの豹変ぶりが理解できなかったが、しばらくの思考の末、ある答えに辿り着いた。
(まさか、さっきのは芝居で、こっちが本性だというのか?)
唖然とする修史の前で、面倒くさそうに雪乃が口を開いた。
「さっぱり理解できないわ。どうして、こんな子が、学内から選びに選ばれた者だけが入ることを許される撫子会に入ってきたのかしら?」
ちらり、と雪乃が修史を見た。その目つきはまるで下賎な者を見下ろす女王のそれのように思えた。
(なんだ……?)
「ふうーっ」
二度目のため息の後、さらに深く椅子にもたれながら、スカートの中が見えるのもお構いなしに雪乃が、組んでいた脚を広げた。
「理事長が面倒を見て欲しいと仰られたから、仕方なく承知したけれど……」
ふうっと、女王が肩を落とす。
「どう見ても、普通の子よね」
「お婆様の知り合いの子だって言ってたけど、お茶会やパーティでも見かけたことないよ」
女王に続き、アンティーク人形が、下からじろっと修史を見上げる。
「こんなに目立つのになぁ」
「あ、あの、目立ちますか、あたし?」
おずおずと修史が口を開く。
「ああ。目立つ目立つ。目元まで隠れたもっさい前髪に、そばかす。確かに、野暮ったくてかえって目立つな」
さも当たり前、と言わんばかりに蓮が腕を組んだ。
「しまった……」
周りに聞こえないように修史が咳く。
万全のカモフラージュだと思っていたこの女装がかえって目立つとは思っていなかった。
「ふむ……。素材は悪くなさそうなのに、なぜそんなにダサくしてる?もったいないじゃないか」
蓮が覗き込むように言ったので、修史は思わず後ずさった。
「もったいない、ですか?」
「うん」
「そんなあ。蓮様、何をどういじってもこれが良くなるものですか」
「……ほっとけ」
著者:和泉フセヤ
イラスト:瀬之久史本
要人護衛組織『アイギス』に所属する新人エージェント・如月修史に下った新たな指令、それは『女装して全寮制女子校に潜入し、女学生として生活しながら対象を護衛せよ』という無茶な内容だった。
嫌がる修史だったが、無理やり女装させられ、山田妙子として禁断の花園に投入される。そこで出会うのは淑女の中の淑女・春日崎雪乃、スポーツ万能少女・椿原蓮、小悪魔的策略家・新城鞠奈をはじめとする女の子たち。
修史の奇妙な学生&護衛生活が始まった!
「彼女が今日転入してきた山田妙子さんです」
「そうですか……」
中央の学生が短く答える。
さっき返事したのは彼女らしい。透き通るような、美声だ。
「山田さん、彼女が会長で三年生の春日崎雪乃さんよ」
麗美が紹介する間、修史は、その美声の持ち主の、いや警護対象の顔を見ようと、目を凝らしていた。
「は、はい」
一拍遅れて返事をする修史の後ろで麗美が電灯のスイッチを入れたのか、立ち上がった雪乃の顔がはっきりと見えた。
「私が、会長の春日崎雪乃ですわ。ようこそセント・テレジア学院へ」
優雅な笑顔の雪乃に見つめられ、修史はなぜか全身を射抜かれたような気がした。
「それから、向かって右側の彼女が副会長の椿原蓮さん」
麗美が手を差し出すのに合わせ、蓮が頭を下げた。
「教室ではお声を掛けずに申し訳ございません」
「い、いえ、こちらこそ」
やはり蓮も、雪乃とはまた違った笑顔で修史を見ている。
二人とも本部で見た写真よりも実物のほうがずっと美人に見える。
「ようこそ撫子会へ。歓迎します。副会長の椿原蓮です」
「よ、よろしく……です」
ショートカットの蓮は一見、快活そうに見えたが、実物は幾分か落ち着いた印象である。
「そして彼女が新城鞠奈さん。撫子会では会計を担当してます」
麗美が向かって左側の学生に手を向ける。
「初めまして、妙子様。一年の新城鞠奈と申します」
鈴を転がす様な声とはこの事か、と修史は思った。他の二人よりも幾分身長が低く、あどけない顔がどことなく高価なアンティーク人形を思わせた。
髪を両側で結った、入形のような鞠奈がペコリ、と頭を下げた。
鼓動が早まる胸を抑えつつ、修史も頭を下げる。
三人とも女性嫌いの修史も認めてしまうほどの美少女だ。それに気品もある……。クラスメイトの真田設子と同じ雰囲気を感じる。
「こちらこそ……。ところで、学生会のことを撫子会と呼ぶんですよね?」
「はい、その通りですわ。セント・テレジアの学生会は、撫子会と呼ばれておりますのよ」
先ほどと変わらず、鈴を転がすような声で鞠奈が答える。
奇異に聞こえる名称だが、いわゆる通称というやつか、と修史は納得した。
(大和撫子、のナデシコか……)
「さて、と。お伝えしていた通り、山田さんも撫子会に入るので、仲良くしてあげてくださいねー」
麗美がボン、とその背中を軽く叩くと、修史は条件反射的に頭を下げた。
「よ、よろしくお願いします、です」
「勿論ですわ。お友達が増えて嬉しいわ」
「撫子会が三人きりなのは少々寂しいと思っていたので、大歓迎です」
「よろしくお願いいたします、妙子様」
三入の歓迎の言葉を聞いて修史は少し安堵した。こんなおしとやかなで優しそうな女の子たちとなら、なんとかやれそうかもしれない、こちらも徐々に慣れるとして、距離を置いての護衛なら可能だ、そう思った。
「それじゃー、あとは若い者同士で~。山田さん、ではまた~」
「は、はい」
右手をひらひらと振り、麗美が部屋を出た。
「ご苦労様でした、星野先生」
雪乃が、その背中に頭を軽く下げる。
麗美が出て行ってからも三人は静かに笑みを浮かべていた。
が、しばらくするとその顔から笑みが消えた。
「……行ったわね?」
「ああ、行った」
麗美の足音が遠のいていくのを聞き届けると、蓮が雪乃に頷いて見せた。
三人の笑顔が一転して気だるそうに見え、口調も先ほどと少し変わっている。
「あー、肩凝ったぁ」
鈴を鳴らすような声だったアンティーク入形が、疲れ果てたような声で、まるで『やってられない』といった顔で肩を大きく回した。
「……へ?」
その様子を見て修史はしばし呆気にとられた。
(あれ?)
「ふーっ」
大きな溜息をついて、雪乃が玉座のような椅子に腰掛け、白く細い足が露出するのも構わず大きく脚を組み出した。その隣では、蓮が大口を開けて欠伸をしている。
修史には彼女たちの豹変ぶりが理解できなかったが、しばらくの思考の末、ある答えに辿り着いた。
(まさか、さっきのは芝居で、こっちが本性だというのか?)
唖然とする修史の前で、面倒くさそうに雪乃が口を開いた。
「さっぱり理解できないわ。どうして、こんな子が、学内から選びに選ばれた者だけが入ることを許される撫子会に入ってきたのかしら?」
ちらり、と雪乃が修史を見た。その目つきはまるで下賎な者を見下ろす女王のそれのように思えた。
(なんだ……?)
「ふうーっ」
二度目のため息の後、さらに深く椅子にもたれながら、スカートの中が見えるのもお構いなしに雪乃が、組んでいた脚を広げた。
「理事長が面倒を見て欲しいと仰られたから、仕方なく承知したけれど……」
ふうっと、女王が肩を落とす。
「どう見ても、普通の子よね」
「お婆様の知り合いの子だって言ってたけど、お茶会やパーティでも見かけたことないよ」
女王に続き、アンティーク人形が、下からじろっと修史を見上げる。
「こんなに目立つのになぁ」
「あ、あの、目立ちますか、あたし?」
おずおずと修史が口を開く。
「ああ。目立つ目立つ。目元まで隠れたもっさい前髪に、そばかす。確かに、野暮ったくてかえって目立つな」
さも当たり前、と言わんばかりに蓮が腕を組んだ。
「しまった……」
周りに聞こえないように修史が咳く。
万全のカモフラージュだと思っていたこの女装がかえって目立つとは思っていなかった。
「ふむ……。素材は悪くなさそうなのに、なぜそんなにダサくしてる?もったいないじゃないか」
蓮が覗き込むように言ったので、修史は思わず後ずさった。
「もったいない、ですか?」
「うん」
「そんなあ。蓮様、何をどういじってもこれが良くなるものですか」
「……ほっとけ」
高笑いの鞠奈に、思わず地の声が出た。
「え?」
思わず、三人が修史を見る。
「い、いえ、放っておいてください」
「へえ……?」
「ほおー、意外と気が強い?ウチら撫子会のメンバーにその態度とは」
雪乃と鞠奈がこちらを見ると、修史の背中を冷たいものが走った。
恋する乙女と守護の楯〈上〉―The shield of AIGIS (集英社SD文庫)です。
題名を見ただけで「あぁ」と思われた方もいると思います。
そう、PS2ゲーム恋する乙女と守護の楯 The shield of AIGIS(通常版)の、ノベライズ版です。
題名を見て「あぁ」と思った多くの方はこっちの「大きなお友達版」恋する乙女と守護の楯を想像したんじゃないかな。おいらはそうでした。そしてこっちしかクリアしてません。
ストーリーは5人を旨く絡めて纏めてあるんじゃないかな。さすがプロ。「大きなお友達版」をプレイしたおいらにはもう少し欲しかったけど。
あと、後書きを読んでて思ったんだけど著者の和泉フセヤさんって名前の通りのトコに住んでるのかな?
恋する乙女と守護の楯 The shield of AIGIS(通常版)
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