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迷い猫オーバーラン!〈3〉…拾う? (集英社スーパーダッシュ文庫)
著者:松 智洋
イラスト:ぺこ

夏祭りで宣伝とパティシエールである希のおかげで『ストレイキャッツ』は立ち直りつつあった。千世も初めてのバイトに慣れないながらも頑張っている。だが好事魔多し、梅ノ森学園の体育祭を舞台に、ブルマ派の千世とスパッツ派の文乃が対立し、学園全体を巻き込む騒動に発展する。さらに、迷い猫同好会の活動が原因で希が元々いた施設に彼女の所在がばれてしまい、家族の関係に危機が訪れる?恋の二人三脚で巧と共に走るのはどの迷い猫なのか!?

「どう?気に入った?」
メイドニ人をひきつれ、梅ノ森がやってくる。
「いや、気に入るもなにも……」
やりすぎ。
この光景を見て出てくる言葉はそれだけだ。
「アンタ、やっぱバカじゃないの?たかだか高校の体育祭でなにやってんのよ。オリンピックでもするつもり?」
「せっかく全世界に公開するんだもん。多少は見栄えも整えないと」
多少……これが、多少なのだろうか。
「当日までには、各チームの櫓と観客席が完成してるはずよ」
このうえまだ何か作ろうってのか。
「櫓ごとに定点カメラを設置するの。あと、放送席と観客席にも一台ずつ。もちろんハイビジョンよ、ハイビジョン」
「画質にこだわるのはけっこうだが、地元の体育祭なんぞ見て誰が喜ぶんだ?」
「その点も、もちろんぬかりないわ。佐藤、鈴木!」
梅ノ森が声をかけると、クオリティの高い背景画のように控えていたメイドさんが前に進み出る。そして、おもむろに自らのメイド服を脱ぎ捨てた。
「なっ!?」
そこに現れたのは、学校指定の体操着姿の元・メイドさんだった。
だが、よく見ると体操着は体操着でも大きな違いがあった。
普段は分厚い布地に隠された絶対領域が、最大サイズの広さで存在感を示している。
その名は誰もが知っているが、二次元と一部マニア向けなモニョモニョ以外では、いまや実物を拝むこと自体があり得ない伝説が、今、目の前に展開していた。
「なんで……ブルマ?」
「ふっ……いいところに気づいたわね」
梅ノ森は、我が意を得たりと頷いた。
「いや、普通気づくって」
「巧、うちの体操着はなにか言ってみなさい」
「は?いや、短パンだろ」
「そう、短パンよ。今どきはどこの学校だって短パンなのよ……」
「それがなんだっていうのよ。付き合ってらんない。行くわよ、巧」
「ちょっと、芹沢文乃!人の話は最後まで聞けってのよ!」
俺の腕を掴んでさっさと行こうとする文乃を、梅ノ森は慌てて止める。
「鈴木、マイクを!」
鈴木と呼ばれたメイドさん――現ブルマさんがすかさず無線式のマイクを差し出す。
梅ノ森は恭しく差し出されたマイクをひっつかむと、いきなり大声で怒鳴る。
「みんな、ちゅーもーっくっ!」
もう一人の元メイド――現ブルマさん、ええいややこしいな。
とにかく、片割れのメイド佐藤さんが持つ拡声器から梅ノ森の大声が何倍にも拡大されて朝の学校に響き渡る。近くを通りかかった生徒が何事かと足を止め、次々と振り返る。
そして千世はたっぷりと間を持たせてから唐突にこう宣言した。
「今日をもって、梅ノ森学園女子の体操着はブルマになるわ!」
朝っぱらから重大発表だった。
それも、もの凄くどうでもいい内容だ。なんというか、わざわざ大々的に言うことでもない
し、ましてメイドさんがわざわざ着替えるまでもないと思う。
だが、周囲の反応は俺の予想とはまったくもって違っていた。
「「うおおおおおっ!」」
一部で上がる、雄叫びのような歓声(主に男子)。
「「ええええええっ!」」
また一方では、不満を絵に描いたような絶叫(主に女子)。
「すでに、人数分のブルマは用意してあるわ。もちろん色は紺と小豆の二色!」
「「うおおおおおおおっ!」」
ふたたび男たちが沸いた。
「さすが梅ノ森!俺たちに出来ないことを平然とやってのけるッ!」
「そこにシビれる!あこがれるゥ!」
「今日は記念日だ!俺たちの夢が現実になっためでたい日だ!」
「梅ノ森!梅ノ森!」
口々に梅ノ森を賞賛する。
中には肩を組んで歌い始めるやつ、遠くの空に向かって祈るやつ。
そして最後は怒濤の梅ノ森コール。
一躍カリスマと化した梅ノ森はいつも以上に女王様な顔で野郎どもを脾睨する。
だが、女子はというと、先ほどにもまして不満と嫌悪感を露にしていた。
「ブルマとかマジでありえなくない?」
「ていうか、男子必死すぎ」
「ぶっちゃけキモいよねー」
「男子キモーい」
「もう先に逮捕しといた方がいいんじゃね?」
汚物でも見るかのような反応。
ブルマブルマと騒ぐ連中もどうかと思うが、女子は女子でかなりヒドイな……。
すると、まるで俺の感想が伝わったかのように女子たちの前に進み出る一人の勇者がいた。
「黙れこの三次元のメスブタどもがあ!」
家康だった。ひっこめ菊池、菊池マジシネ、菊池キモい、などなど罵署雑言が浴びせられる
中、それでも家康は一歩もひくことなく女子たちの前に立ちはだかる。
「オレは……オレは……オレはブルマが好きだああああああああっ!」
なんかもういろいろと最低だった。いい歳した高校生が涙と鼻水で顔面をぐしゃぐしゃにしながら言うセリフじゃあない。絶対ない。
「お尻を包み込む丸みを帯びたフォルム、化学繊維独特の滑らかな手触り、ふとももをキュッと締めつける裾の締まり具合……そのすべてがオレは大好きだ!愛していると言っても過言ではない!」
もはや、女子はブーイングどころかドン引き。
俺自身も今すぐ菊池家康という人間の記憶を脳内かち抹消したい気分だ。
「菊池ーっ、よくぞ言ってくれたぁ!」
「おまえってやつあ……くぅ」
って、おーい、男子諸君、なんで泣いてるんだー。
「二回死ねっ!」
そんなよくわからない友情シーンを打ち破り、文乃の背面蹴りが家康を襲う。
「あふん!」
妙な声をあげつつ吹っ飛ばされた家康が、台風で飛ばされたビニール傘みたいに地面を転がり、真新しい入場門に激突。そのまま動かなくなった。
文乃は無言で恐怖で真っ青になった男子たちを睨みつける。
しばらくすると、自然と女子の間から拍手がわき起こった。
「さっすが文乃。いい蹴りしてる。大晦日はアンタで決まりダネ☆」
委員長がバチーン☆とウィンクしながら現れた。
「叶絵……見てたなら手伝いなさいよ」
「おっと、あたしゃ荒っぽいのは専門外だよ。それに、ここで文乃のパンツを観賞したい」
「どこ見てんのよ!」
文乃は真っ赤になってスカートをおさえると、すぐさま俺の方をギロリと睨む。
「アンタ、見たでしょ」
「え?いや、見てない見てない!」
文乃のお気に入り、水色ストライプのしましまパンツを慌てて頭から振り払った。
「いやー、今日はピンクかあ。モテカワっすか?モテカワなんすか?」
「え?なに言ってんの委員長。今日は水色でしょ?つーか、ピンクは文乃のとっておきだからここぞって時にしか穿かない……あっ」
しまったーと思った時にはもう遅かった。
振り返ると、文乃は鬼の形相。
委員長にいたっては、ニヤニヤと笑っている。
「へえ……ずいぶん詳しいのねえ……」
「ま、待て、文乃。今のは違うんだっ」
「なにが違うの?アンタが、あたしのパンツを逐一チェックしてるような変態野郎だってこと?」
「チェックなんてしてない!本当だ!ただなんつーか、毎日見てると自然とローテーションとかそういうのがわかってきたりするだけで……」
「一万回死んでこおおおおおおおおおおおおおいっ!」
ローファーのつま先でえぐりこむように放たれた蹴りがみぞおちを襲う。


迷い猫オーバーラン!〈3〉…拾う? (集英社スーパーダッシュ文庫)です。
ブルマ対スパッツの体操着バトル開始です。
ブルマの歌まで……
そして希は文乃と千世に爆弾投下!!
ムフフフ♪とお楽しみ下さい

『サンキュー・ブルマ~ありがとうのキモチ~』
作詞/作曲―菊池家康
歌     菊池家康とブルメイツ

(ブッブッブルマブッブッブルマ)
(ブッブッブルマブッブルマブッブッブルマ)
ちょっと聞いてよ地球が危ない。いつものことさオレは寝る。
SoftにTouch、HardにCatch、脱いだブルマは置いていけ。
オオサンキューブルマ、ありがとう、オオサンキューブルマ、また来週。
ちょっと奥さん街が燃えてる、オレ明日から本気だす。
coolにsmell、wildにPutOn。被るまえにはよく拝め。
オオサンキューブルマ、さようなら、オオサンキューブルマ、また来世。
※コーラス
〈イントロ〉
「さわるだけでええんか……?」
(※セリフ)
オオサンキューブルマさようなら
オオサンキュ!ブルマナマステナマステ
(ブッブッブルマブッブッブルマ)
(ブッブッブルマブッブルマブッブッブルマ)
(ブッブッブルマブッブッブルマ)
(ブッブッブルマブッブルマブッブッブルマ)
(イェア!ウッ!ハッ!)※フェードアウト
 


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