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パパのいうことを聞きなさい! (集英社スーパーダッシュ文庫)
著者:松智洋
イラスト:なかじまゆか

ある日突然、可愛い三姉妹と一緒に暮すことになったら?」
長女はツンデレ、次女は小悪魔系、そして三女は無垢で無邪気な三歳児。
いずれもそんじょそこらではお目にかかれない美少女(内一名、美幼女)だ。
まさに男の夢。
最高にハッピーな同居生活がはじまる……わけがなかった。

大学に合格し、新生活をスタートさせたばかりの瀬川祐太は新しい友人や憧れの人に巡り会い普通の大学生活を送っていた。しかし、姉夫婦の乗った飛行機が行方不明になった事から事態は一変。一人暮らしの六畳間に、中学生の空、小学生の美羽、保育園児のひなが同居することになってしまったのだ!いきなり思春期の少女達のパパになってしまった祐太の運命は!?


空ちゃんの口からアパート全体を揺るがすような悲鳴が響き渡った。
「どうも、すみませんでした」
そう言って、俺は玄関先で大家に向かって頭を下げた。
悲鳴を聞きつけてやってきた大家に事情を説明してなんとか注意だけで済んだものの、男の部屋に未成年の女の子がいることに少なからず難色を示していた。
去り際に言われた「くれぐれも問題は起こさないように」という言葉が耳に痛かった。
そして部屋に戻れば、今度は空ちゃんの突き刺さるような視線が待ちかまえていた。
「えーと……さっきはその……ごめん」
一瞬、なにか上手い言い訳がないかとも考えたりしたが、ここは素直に謝ることにした。
同居初日から変にギクシャクしたくはなかったし。
「……もういい。許してあげる」
その気持ちが伝わったのか、空ちゃんは溜息をつきながら言った。それから「狭い部屋だし、こういう事故もあるわよね……」と、まるで自分に言い聞かせるように眩いていた。
「お姉ちゃんってば気にしすぎだって。別に裸を見られたわけじゃないんだし」
「き、気にしてなんかないわよ!た、ただちょっと恥ずかしかったっていうか……」
そうしてまた、空ちゃんはもじもじとしながら傭いてしまう。
やっぱり年頃の女の子は難しいと、あらためて実感していた時。
こつん。と優しい音がした。眠気と重力に敗北したひなの頭がちゃぶ台とぶつかった音だった。その寝顔だけで、いままでの緊張が不思議なほど流されていく。
「ひなもあんな感じだし、とりあえず寝る準備をしようか」
さて、提案したものの問題は誰がどこで寝るかだ。
ひとまずスペースを確保するためにちゃぶ台を部屋の隅に片してみる。
「あ、しまった。布団一組しかない」
しかも仁村が自分専用に置いていったやつだ。
男性用の大きめサイズだけど、さすがに三人で眠るには狭いだろう。
「よし、こうしよう。空ちゃんとひなは、こっちのベッドで寝てくれ。そんで、美羽ちゃんはその布団を使えばいい」
「え……じゃあ……」
「俺は適当に床で寝るよ」
「そ、そんなのダメ!」
空ちゃんが焦ったように言う。
「そうですよ、いくら夏だからって風邪ひいちゃいます」
「座布団の二、三枚でも敷けば大丈夫だって」
実際ついこの前まで仁村はそうやって寝ていたし。
だけど、空ちゃんはどうしても納得できないらしく固い表情のまま口を開く。
「……やっぱり私たちだけベッド使うなんて、ダメ」
「でも、しょうがないじゃないか」
「あ、いいこと思いつきましたっ」
すると、美羽ちゃんがぽんと手を打って言った。
美羽ちゃんの言う「いいこと」とは、実に簡単で、でも少し困った提案だった。
「これでみんな布団の上で寝られますよね」
「う、うん……まあ……」
折りたたみ式のベッドを片付けて、二つの敷き布団をくっつけてしまった。
これで全員が寝られるスペースは確保できたものの、俺としては三姉妹と同じ布団で寝るようなもので、正直ちょっと落ち着かない。
「おーじーさん♪やっぱり真ん中に来なくてよかったんですか?」
「いやいやいや、そこはひなの場所だから」
からかうような美羽ちゃんの口ぶり。
ひなを間に挟むようにして横になる姉妹。
その隣で、俺は小さく身を縮めて眠ることになった。いや、別に縮こまる必要なんてないんだけど、なんとなく彼女たちとある程度の距離を保たないと落ち着かないというか……
……いかんいかん。早いとこ寝ちまおう。
次に開ける時は日が昇ってからだ――とばかりに固く目を閉じた。
……
って、ぜんぜん眠くないよ!
普段は日付が替わる前に横になることなんてほとんどないし、なによりも隣には女子中学生や女子小学生が寝ているという未知の状況が俺のことをちっとも落ち着かせてくれない。
ていうか、一番の問題はこの部屋に充満するなんとも言えないイイ香りだ。
コンビニから戻って来た時からすでに気づいてはいたが、我が家の狭いユニットバスで三人もの女の子が入浴するとまさに部屋全体が風呂場にでもなったかのように香りが広がってしまうらしい。結構長い時間入っていたらしいし、上がってからも長い髪を乾かすのにずいぶんと時間がかかっていた。
不思議なもんで、並日段嗅ぎ慣れてるはずのシャンプーやボディソープの香りが女の子の体から漂ってくるというだけでまったく違うモノに感じられてしまう。
これなら床で寝た方が気がねしなくていい分まだマシだったかもしれない。
こういう時はあれだ。古来より伝わる秘技"羊を数える"だ。
ベタな方法だが、長く受け継がれているということは、それだけの信頼と実績があるということなのだ。たぶん。きっと。
というわけで、頭の中で一匹ずつ羊が柵を飛び越えていく光景を想像しながら数えていく。
「羊が一匹、羊が二匹、羊が三匹……」
そうして我が牧場の羊の数が三桁の大台を超えた時、事件は起こった。
「う、ううん……」
そんな声とともに、何かが俺の上に覆い被さってきた。
「え……ちょ、ちょっと空ちゃん……!?」
転がってきた空ちゃんが、抱き枕よろしく俺の体にしがみついてきたのだった。
「あの、ちょっとこれはいろいろとマズイっていうか……」
「んー……やだあ……」
「おおう!?」
成長期に突入したばかりの十四歳とはいえ、女の子の体というのはどうしてこうも柔らかいのか。正直ちょっと寂しいと思っていた胸なんかも、こうして密着してみると案外膨らんでいたりして……
「って、なにを考えてるんだ俺は!?つーか、ほんとにマズイって!」
「うるしゃい!」
バシッ!
「あだ!?」
顔面を引っぱたかれてしまった。
さらに空ちゃんは放さないとばかりにきつく抱きついてくる。
ど、どうしたらいいんだ?

パパのいうことを聞きなさい! (集英社スーパーダッシュ文庫)です。
叔母さんはそこで一旦言葉を切ると、これまでより強い口調で言った。
「はっきり言います。アナタには無理です」

金銭、学校、生活、叔母さん、妙にリアルです。
でもそこはライトノベルです。
常にフフン♪とした方向に持って行ってくれます。です。
迷い猫オーバーラン!とは違った楽しさです。
空ちゃんの嫉妬っぷりがよろしいです。な。

パパのいうことを聞きなさい! (集英社SD文庫)
パパのいうことを聞きなさい! (集英社SD文庫)  (ライトノベル)



「触っちゃだめー!」
カゴに手を伸ばそうとした俺を、鋭い声が制止した。
「空ちゃん、どうしたの?」
「い、今すぐそこから離れて!」 
いぜんとして、空ちゃんは鋭い口調で俺の一挙手一投足に注意をはらいながらふたたび制止した。
空ちゃんというのは、つい最近、俺と同居することになった14歳の美少女だ。
なぜそうなったのかという話は、長くなるのでここでは割愛する。
ただまあ、今、この俺を噛みつかんばかりに顔を真っ赤にして睨んでいるのが、俺の新しい家族のひとりだということだけ、理解してくれればいい。
「で、でも……」
「でもじゃないですっ! すぐに離れなさーいっ!」
彼女が俺を遠ざけようとしているのは、我が家の狭いユニットバスの隅に置かれたカゴだ。
いわゆる洗濯カゴ。汚れ物の集積地だ。

書き下ろしweb限定短編小説コインランドリーの受難」もどうぞです。

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