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ストライクウィッチーズ―スオムスいらん子中隊がんばる (角川スニーカー文庫)
著者:ヤマグチノボル
イラスト:上田梯子
原作:Projekt Kagonish&島田フミカネ

わたし、ハルカ。海軍所属の機械化航空歩兵、通称ウィッチ。
正体不明の世界の敵ネウロイと唯一戦える魔女なんだ。今度、任務で辺境国スオムスに派遣されることになったんだけど、わたしダメ隊員だし、メンバーもやる気ない“いらん子”ばかりだしすごく不安。
でも憧れの智子先輩も一緒だから頑張らなくちゃ。智子先輩、ひとりやる気で空回りしてるけど大丈夫かなって、先輩っ!この装甲薄すぎますぅ~。空飛ぶ乙女たちの防衛白書。

 「おほほほほほほほほ!」
「はぁ?」
と智子は振り向いた。見ると、十人ほどの少女たちが並んで、智子たちを見つめていた。おそろいのボアのついた革ジャケット。腕にはスオムス空軍マークの、青い十字。
そして……、その足には、スマートなフォルムの飛行脚が光っている。
どうやら彼女たちば、スオムス空軍の機械化航空歩兵であるようだった。
「アホネン大尉!」
エルマ中尉がそう叫んだ瞬間、智子とハルカは爆笑した。
「な、何がおかしいのよ!」
先頭に立った、巻き自の金髪の少女が怒鳴る。身長は智子より5センチほども高い。
持ち上げられ、リボンで結んであった。広めの額の下、切れ長の蒼い瞳が光っている。
なんだか意地の悪そうなそんな顔を見つめ、智子は笑いつづけた。
「アホって!」
「わたくしはミカ・アホネンよ!それがどうしたのよ!苗字じゃないのよ!」
「いや……、外国の苗字に文句をつける気はないけど……」

智子がそう言ったとき、ハルカが小さな声でつぶやいた。
「わたしはあほやねん」

ぶわっはっはっはっは!と智子は腹を抱えて笑った。ハルカの肩を叩く。
「あなた、機械化航空歩兵の才能はないけど、妙なセンスあるわね~」
顔を真っ赤にしたミカ・アホネソ大尉がよってきて、智子を平手打ちにした。
ばしぃ~~ん!と乾いた音が、スオムスの空気に溶けた。
「なにすんのよ!」
「上官に向かってどういうこと!この不良外国人どもが!」
「不良外国人ですってぇ?」
知子の口がつりあがった。
「あんたたちの国を助けにきてやったんじゃないのよ!わざわざこんな田舎くんだりまできてやったのに、その言い草はどういうこと?」
ミカ・アホネン大尉は、髪をかきあげた。金色の巻き毛が、きらきらと光る。
「確かに頼んだわ。頼りになる助っ人を送って頂戴、ってね!」
「だから来てやったんじゃないのよ」
「はぁーん?はぁーん?どこが頼りになるっていうの?あなたたちの装備した飛行脚、どう見ても二線級じゃないの!」
智子は、痛いところをつかれ、う、と口籠もった。
「さっきの訓練、遠くから見学させてもらったわ!その実力、いかにも余りものって感じぃ?」
智子は、さらに痛いところをつかれ、押し黙った。ミカ・アホネン大尉は、握った拳でぐりぐりと、智子の頬をこねくり同した。
「いやな子!生意気でいやな東洋人ですこと!せいぜい、わたくしたち正規軍の足を引っ張らないで欲しいものですわ!ねえ?エルマ中尉」
ミカ・アホネン大尉は、エルマに顔を向けた。小さく、エルマ中尉は縮こまる。
「第一中隊、ナンバーワンの落ちこぼれには、ぴったりの任務じゃない?こんな"いらん子中隊"の指揮官なんて。ね?」
ミカ・アホネン人尉の後ろに控えた、機械化航空歩.兵の少女たちが大声で笑った。
恥ずかしそうにエルマ中尉は下を向く。
「いらん子中隊ですってぇ?」
「そうよ。あなたたちの資料を読んだわ。どうやらお国で持て余された、落ちこぼれぞろいじゃないの」
「そんなことないね!」
とキャサリンが反論した。
ミカ・アホネン人尉は、大声で笑った。
「そんなことあるわよ!リベリオソ海軍の"壊し屋"さん!飛行学校での訓練期間から、ここに来るまで、あなた何個の飛行脚を壊したの?」
「さぁ?」
「六十三機よ。撃墜土さん」
「悲しい事故ねー」
「いや、記録を読む限り、あなたの人為的事故だから」
と、ミカ・アホネン大尉は切り捨てた。
「さて、そこの銀色のワンちゃん」
と次にビューリングを見つめて言った。使い魔のダックスフントと一体化しているので、彼女の頭には可愛らしい犬の耳が生えている。
「あなたはブリタニア空軍で、八十ニ回軍規違反を犯し、書いた始末書始末書二百三十二枚、営倉入五十四回、軍法会議八回……、銃殺刑になりそうになったこと三回……。とんだ反抗児ね」
ビューリングはゆっくりと指をおって数をかぞえはじめた。
「営倉入りは五十五回だ」
「自慢にならないわよ!そんなの!スオムスはブリタニアの流刑地じゃないのよ!まったくいい加減にしてほしいわ。そしてそこのカールスラントのおちびさん」
ウルスラは眼鏡を持ち上げた。
「はい」
「あなたはカールスラントで、一部隊、自分の"実験"のために壊滅させたらしいわね」
「新型の航空爆弾を試しただけです」
「それにより、一個飛行中隊が重傷……。スオムスには何の実験をしにきたのかしら?せいぜいおとなしくしていてね!」
ウルスラは答えない。
次にミカ・アホネン大尉は、ハルカを指差した。何か言われる前に、ハルカは絶叫する。
「は、はい!ごめんなさい!わたし扶桑皇国海軍横浜航空隊創設以来の落ちこぼれって言われましたぁ!"味方撃ちの迫水"って言われて、お前は機銃を撃つなとまで言われました!すいません。ごめんなさい。ほんとごめんなさい。生まれてすいません」
その仕草を見て、にや…っと、ミカ・アホネン大尉は笑みを浮かべた。
「いいわ。あなたみたいな正直な子、わたくしすきよ」
それからつかつかとよってきて、ハルカのあごを持ち上げる。


「え?え?えええ?ひえ?んむっ!」
そして、わけがわからないままのハルカの唇に、自分のそれを押し付ける。
「む~~~!」
ぶはっ、と唇を離すと、ふらふらとハルカは地面に崩れ落ちる。ミカ・アホネン六尉の胸倉をつかみ、智子は怒鳴りつけた。
「ちょ、ちょ、ちょっとぉ!あんたなにしてんのよ!」
「気に入ったから、ご挨拶さしあげただげじゃないの」
「挨拶?女の子の口にキスっておかしいんじゃないの!」
「あらら、恋は自由よ」
智子はせつなくなった。こんなレズビアンの変態と、いっしょに戦わなくちゃならないなんて……。
ミカ・アホネン大尉は、膝をついて呆然としているハルカに口を近づけた。
「ねえあなた。そんないらん子中隊を抜け出して、わたくしの隊にいらっしゃいな。わたくしの"いもうと"にしてあげる。おほ!おっほっほっほ!」
周りにいた第一中隊の隊員たちは、いっせいにミカ・アホネン大尉に詰めよった。
「そんな!お姉さま!ひどいですわ!」
「これ以上、"いもうと"を増やしてどうなさるおつもり!」
智子はあきれて、そんな様子を見つめた。どうやらこのアホネンは、自分の中隊をハーレムにしているらしい。
「とにかくそんなわけで、訓練するのは勝手だし、飛行場も使っていいけど……、せいぜいわたくしたちの足を引っ張らないでね…わかった?エルマ中尉」
は、はい……、とエルマ中尉はうなだれた。
「ほら、このようにわたくしたちは、カールスラントから買い付けた、新鋭のメルスE型を装備することになったのだから、余計な邪魔は控えていただきたいわ」
なるほど、見覚えがあるスマートなラインのメルスが、第一中隊の乙女たちの足に光っている。
「く……」と智子は、悔しさで唇を噛み締めたた。
その智子の顔を、ミカ・アホネン大尉は軽蔑を浮かべた目で見つめた。
「穴拭智子少尉ね」
「そうよ」
「あなた、ちょっとばっかネウロイを撃墜したことがあるからって、調子に乗るんじゃないわよ」
「なんですってっ?」
「あなた一人で何がてきるって言うの?空中戦闘はチームワーク!しょせんあなたたちは鳥合の衆。ネウロイが攻めてぎても、おとなしくこの基地で遊んでて頂戴。邪魔だから」
う、と知子は拳を握り締める。
悔しさが膨れあがる。
気がついたらミカ・アホネン大尉に指をつきつけていた。
「だ、誰があんたたちなんかに負けるもんですか!」
「せいぜい、訓練してね?わたくしたちの足を引っ張らないように!」
あっはっは!と大笑いを残して、ミカ・アホネン大尉とその取り巻きたちは、去っていった。
あとに残された智子はわなわなと震えながら、その背に怒鳴った。
「覚えてらっしゃい!」

ここから先も
ストライクウィッチーズ―スオムスいらん子中隊がんばる (角川スニーカー文庫)です。

~~~~~~~~~
~~~~~~~~~

「あの……、穴拭少尉……」
「なぁに?」
「外国にくると、味噌汁が飲みたくなるっていいますよね?」
「言うわね」
何が言いたいのだろう、と智子は思った。
「その……、味噌汁が飲みたくなったら、わたしを食べてください」
「はい?」
智子は、ハルカを見つめた。毛布を顔の半分まで引き上げ、ぶるぶると震えている。切りそろえられた髪の下、目元まで真っ赤になっていた。
「食べてくださいって、あなた…」
「わたし、その……、ほんとに落ちこぼれだから、このぐらいしかお役に立てないって思って……、いや、わたしでよければ、なんですけども」
一生懸命にそういうハルカを見て、智子は笑ってしまった。
「わ、笑うなんてひどいです……」
「ごめんごめん。なんかおかしくなっちゃって……」
「本気で言ってるんですから」
「あのね、あなた女の子でしょ?女の子同士で、そんな、ねぇ……。いくらなんでもねえ……」
「じゃあ男の人とはしたことあるんですか?」
「いや、ないけど……、って何を言わせるのよ!」
と、智子が怒鳴ると、ハルカは毛布を頭まで引っかぶった。
「じゃあ、ちょっと試しにわたしに触ってみてください……」
「はぁ?」
「試しです試し……。気に入るかもしれません」
智子はしかたなく、毛布の中に手を差し込む。
触ると言ってもどうやっていいのかわからないので、適当にピアノでも弾くように指を動がしてみた。毛布の下のハルカの身体が、小刻みに震え始める。
智子の指が、胸のあたりでスタッカートを刻み始めると、ハルカがかぶった毛布のかたちが、閉じた口のかたちに変わる。強く、毛布を噛み締めているのであった。

うひょ~~~

電子書籍です。

ストライク・ウィッチーズ スオムスいらん子中隊がんばる
ストライク・ウィッチーズ スオムスいらん子中隊がんばる   (ライトノベル)

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