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生徒会の二心 碧陽学園生徒会議事録

私立碧陽学園生徒会室――そこは、選ばれし者だけが入室を許される聖域にして楽園・・・・・・のはずだった。
突如現れた「生徒会顧問」を名乗る美女。彼女は不敵に微笑んでこう言った。
「それは、禁則事(自主規制)」
・・・・・・すいません、また同じ手を使いました。嘘です。では改めてもう一度。
彼女は不敵に微笑んでこう言った。
「この生徒会、今日でお終いだ。解散」
愛すべき日常をつづった記録の一端といえば聞えはいいが、実は何も話が進んでいなかった第1巻。
ここに来て、ついに物語に変化が!?


「『無我の境地に至りたいから、部費を増やせや、生徒会』ですって」
俺の言葉に、目の前で嘆願書を眺めていた知弦さんが疲れたように笑う。
「無我の境地は、絶対にお金の問題じゃないと思うのだけれど」
「知弦さんの見てる嘆願書は?」
「ああ、こっちは男子バスケ部よ。ただ一文、『安西先生……バスケが……したいです』とだけ……」
「勝手にしなさいよぉ―」
急に会長が切れた。知弦さんの手元の嘆願書を奪い取り、ビリビリと破く。……見つかったら問題になる行為だったが、とりあえず、生徒会メンバーは誰も会長を注意しなかった。会長が親の敵のように何回も男子バスケ部の嘆願書を破る音が響く中、今まで黙々と嘆願書に目を通していた椎名姉妹が、二人同時に、疲れたように息を吐いた。
「どうだった?」
深夏と真冬ちゃんに訪ねてみる。二人とも力なく首を振った。
深夏が首筋を揉みながらこちらに顔を向ける。
「どれも似たようなモンだぜ。相変わらずの、勝手なわがままだ。そのくせ、予算を編成した生徒会を、まるで悪魔の親方かのように……」
その言葉に、真冬ちゃんが続いた。
「予算は年度初めに決定して、その時は各部活とも納得してくださったはずですのに……。ど、どうして、こんなこというのでしょう。真冬は……なんか、悲しいです。」
沢山の勝手な意見を見て、真冬ちゃんはすっかり心が折れてしまっているようだった。
俺は、「ちなみに……」切り出す。
「どんな感じの要望があったの?」
俺の問いに、まずは深夏が「それがよぉ」と答えてきた。
「あたしは運動系の部活を見たんだがな……」
「ああ」
「野球部。『南を甲子園に連れて行く。……だから金下さい』」
「そこは自分の力で連れて行けよ!」
「サッカー部。『中田を探しに行きたい。旅費下さい。』」
「見つけてどうするんだよ!そっとしといてやれよ!」
「女子バトミントン部『翼をください。』」
「羽で満足できなくなったの!?」
「そして陸上部に至っては、『ドーピング用のクスリが高くて手が出ません』なんて」
「どうしてその嘆願書が通ると思ってんだろうなぁ、陸上部!」
「はぁ……」
深夏がぐったりとうなだれる。
続いて真冬ちゃんが「私は文化系の部を見たのですが……」と呟いた。
「文化系まで来てんの?」
「はい……。運動系と違ってそんなにイレギュラーな要因で部費がかさむ事ってなさそうなんですけどね」
「で、どんな感じの要望?文化系はさすがにマトモな嘆願書あるんじゃない?」
「そ、それが……」
真冬ちゃんは一息入れて、苦笑しながら話し始めた。
「まず、例の新聞部ですが。『NASAに取材に行く』と、要望じゃなくて、断言されてしまっています……」
「学校新聞部が宇宙の領域に踏み込む必要がまるで分からないな……」
「つづいて、漫画研究会ですが、『夏コミに行きたぁい♪』らしいです」
「『殺すぞ♪』と返しておいて」
「ミステリ研究会は『完全犯罪を成し遂げるトリックを思いついたのだけれど、三億程かかります。なんとかならないでしょうか?』と」
「今すぐ活動停止させよう。日本のために。世界のために」
「あ、それとゲーム部が、『次世代機ー!』と唸ってます!」
「そもそもゲーム部が成り立っているのがおかしくないか!?学校の目をかいくぐって発足したとしか思えないぞ!」
「あぅ。……その……これは、真冬も部員です……」
「工作員か!生徒会に潜り込んでいたのか!」
「い、いえ、その、ま、真冬は……ただの会計ですから」
「財布預かってんじゃないか―――――!」
「え、えと……まぁ、それはいいとしまして……」
「流したっ!」
「『田中部』さんからも嘆願書がきていますね」
「? 田中部?なんだそれ?」
「えと……『田中姓が集まって、駄弁る部』らしいですよ」
「うん、とりあえずその部は今までの部費を全額返して貰おうか」
「あの、『鈴木部』もありますけど……」
「この括弧の部活審査はどこまで緩いんだよ!」
「他にも、やけに部費を浪費する『セレ部』とか、妙に偉そうな態度で接してくる『幹部』とか、夢見がちな人たちが集まった『空を飛部』等があるようですが……」
「うん、わかった。我が校の部活腐敗は末期のようだね」
なんか日本の政治の縮図みたいな惨状だった。
まあ、生徒会も生徒会で、緩い活動をしているわけだけど。別に学校の金使って何かしている訳じゃない分、いい方だろう。
ふと気づくと俺たちの会話を聞いていたのか、会長がワナワナと震えていた。長机さえも、会長に共鳴してカタカタと震えだしている。 そして……
「こうなったら、妙な活動している部は、この際、生徒会権限でいっせいに廃部にするっ!」


生徒会の二心 碧陽学園生徒会議事録2 (富士見ファンタジア文庫 166-8 )

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