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わたしたちの田村くん 2
著者:竹宮ゆゆこ
イラスト:ヤス

松澤小巻。
進路調査票の志望高欄に「故郷の星へ帰る」と書き続ける不思議少女。
中学三年の夏、田村くんを魅了し翻弄し、その心をとらえたまま家庭の事情で遠方へ去る。

中三の夏―あの、過ぎた夏。
田村くんはこんな私を好きになったと言ってくれた。
朝焼けのグランド、懐かしいあの教室。クラクラするような日差しのした、忘れられないあの横断歩道。
葬送の夕も、花火の夜も。何度も私の前に現れ、何度も私を驚かせて……。
田村くんはあの頃いつでも、私のために走っていたんだ。地球にいるのは寂しすぎて、帰る場所ばかり探していた、そんな私を追いかけてくれた。
私を見失わないように、ずっと一緒に走ってくれてた。
それがわたしと田村くんとの夏―。


相馬広香。
孤高の美少女。でも少し寂しがりやの意地っ張り。高校一年の春、罵りあったり励まされたりした末、田村くんのファーストキスを奪う。

高一の春―この、新しい春。
田村はあたしの後ろの席で、あたしの見方をやっている。
あたしは弱くて、逃げてばかりで、いつか負けて、去るのだと思ってた。
だけど田村がいてくれた。
手を握り、傍らに立つ、ただ一人の見方を見つけた。
あたしはその手を離さない。決めたんだ、あたしはずっと離さない。
もっと強いあたしになって、あたしも田村の見方になりたい。
だってあたしは、あんな奴を、どうやら本当に好きだから。
それがあたしと田村との春―。


そして奇しくもそのキスと同じ日、久しく音沙汰の無かった松澤から届いた一通のハガキが波乱を呼ぶ。



声を出さずに、相馬は泣いていた。
息を詰め、顔をくしゃくしゃに歪め、それでも声は上げずに泣いていた。
俺のノートに、相馬のノートに、涙の雫が途切れず落ちた。
「……こ、こんなのは、……やだよ……っ」
それは、いつからこらえていた涙だったのだろう。絞り出された声とともに、炎が上がりそうなほどに熱い雫が俺の手の甲にも落ちた。次から次へと火を孕んだ涙の雫が、俺の手の甲を濡らしていった。
「……田村……お願い……。ねぇ、お願い、だから……っ」
息を継ぎ、相馬は苦しげな声を上げる。

そして、俺の手を両手で掴んだ。涙に濡れた熱い手が、俺の手を、助けを求める溺れた人のようにものすごい力で握りしめた。そして、
「お願いだから、あたしを、」
握りしめ、かじりつくように引き寄せて、胸の辺り抱え込んでそのまま体を小さく丸めたのだ、俺の手を、俺の手なんかを、必死に抱きしめるようにして。
そして、言った。
「……あたしを……好きに、なってよ……っ」
その後はもう声にならない。



青春っすね、ラブコメっすね、言われてみたいっすね……

わたしたちの田村くん〈2〉 (電撃文庫)

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