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オトナリサンライク
著者:竹岡 葉月
イラスト:八重樫 南

海辺の街サスクノックは妖精が“善き隣人”と呼ばれ人間と共に生きる街―。
何も知らず“奉仕活動”をやるハメになった少年キーチは、その内容が「妖精にまつわるトラブル解決」だと知って仰天!古い家に棲みついて食糧を盗んだり、若い女を口説くのが生き甲斐だったりと妖精達はクセモノ揃い。さらにキーチと一緒に働くセンターの相談員達(※多分人間、性別♀)も予想外に強烈で!?ハプニング上等!!

otonari.jpg
 

――愛に生きるのなら、愛に己の核を探すのなら、なおのこと愛の種類には敏感でありたい。恋。愛。慕情に情熱。私が求める愛とはなんです。真のアモールはどこにあるのか。それを知ることが出来たなら、私はまた一段高い存在として生まれ変われると思うのです。あと少しなのです。

なんかこいつ、結構まともなヤツなんじゃねーかって思った。ちっと臭くて思い詰めすぎてる気はすっけど、別に会話が通じないわけじゃねぇし、スプリガンほどアホじゃなさそうだし、害がねえならほっといても……

――その点、あなたはどうです。私を楽しませてくれますか?

うっがあああああああ。
『動かないで。人が来るのは悲しい』
「おおおお、お、おまえ、おまえ!」
突然の実体化。足音の気配すらなくそいつはそこに現れてた。俺はまた傘を落としそうになる。いきなり後ろから抱きつかれて、驚くなってのが無理なんだ。端に咥えたヤツのパイプの残り香が、間近に流れ込んでくる。なんかやばい薬でも仕込んでんのか、マトモに嗅ぐと鼻先からしびれていく感じがする。
「止まりたまえガンコナー!私の名前はルシアナ!L・ルシアナ・マンスフィールド・ロリンソン! その行動は完全にアウトだ!」
ぴりりりりりり!サイクリングロードに響く警笛の音。翻るマント・コート。華麗な跳躍、そして着地。ルシアナが凛と声を張り上げステッキの先を突きつける。バックに月か花でも似合いそうな、完全無欠な正義の味方の登場だ。
「サスクノック市隣人共生条例に基づき、全行動の停止を要求する!さぁ隣人ガンコナー、我々の話を聞いて貰うぞ!」「さわんじゃねぇえこの下種妖精!」

P0115.jpg


そんなモン待ってるどころじゃなかった。俺の振り返り際の肘鉄が、ヤツの鳩尾にめりこんだ。力がゆるんだところを下駄の足で蹴っ飛ばす。
――うっわあ。
――やっちゃった……。
――やっちゃった……。
何でか相談員たちの悲嘆にも似た声が聞こえる。
だからなんだ。やるならやるそ。
「あ、あのさーキーチー、一応市の方針としてね、はじめはどなた様でも対話からってのがあってさー」
「こんなもん男同士じゃ対話の一部だ黙ってろ!」
俺はカツラを振り捨ててガンコナーをガンつける。
チビだ外人だなんて舐めたまねするヤツに、黙ってやられたことなんて一度もねぇんだ。
「おら、立てよ。寝てんじゃねぇよ」
『私は、私はただ……』
タダも割り勘もなすびもねえや!いいかよく聞けド変態、この世で女に声かけていいのは、一緒に生きる覚悟があるヤツだけだ!
いきなりバシャッと光ったシャッター、俺たちは唖然と振り返る。(写真?)
いったいいつから隠れてたんだか。
左右の草むらから、女達の手が出てた。
「……やー、やめてー。押さないで-」
「ちょっと出てるよ。ばれてるよもう」
「押さないで-」
押し合いへし合い、はみ出てくるのは制服のプリーツスカート。あるいは双眼鏡。誰かのリボン。ローファーのかたっぽ。尻とか髪とか。
「さあ、部長!今こそ激写です!」
「むろん撮るとも!撮ってるともさ!」
「これで校内新聞の一面は決まりですね!」
「創作意欲が湧くなぁ」
やっぱ時代は黒髪少年攻めですよ!
いいなあ、オリエンタル・ビューティー……
人外萌えもいいですよね
腐れた女どもの甲高い声が、俺のまだ無理っぽかった理性を脳みそごと焼き尽くしてく。なんだよそりゃ。何の話だ。
そして、話はそこで終わらなかったわけだ。
『――ああ、そうです。これこそ私が味わいたかったエクスタシー……』
「はあ!?」
蹴り飛ばされたはずのガンコナーが、立ち上がる。
半分に割れたパイプの破片を咥え直し、両手を広げ――何でそんなエビぞって変なポーズなんだ。
ぶって。殴って。少年の少年による魂のギャラクティカマグナム。いいわ。震えが来る。もっとちょうだいプリーズ
「ちょ、待て、寄んなああああ!」
ぶちこんで。ここに!今すぐ!
外套を翻して突進するガンコナー。
俺の悲鳴か女の歓喜か、すれに区別もつかなかった。

 

後書きより
だいじなのは太股なんです。そこが一番大事なんです
 

オトナリサンライク (ファミ通文庫)  
(ライトノベル)

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