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わたしたちの田村くん
著者:竹宮 ゆゆこ
イラスト:ヤス

中学生最後の夏という魅惑のフレーズに浮かれるクラスから取り残されていた田村くんの前に現れたのは、進路調査票に「故郷の星に帰る」と書き続ける不思議少女系、松澤小巻だった。
 受験直前のバレンタインデー、田村くんの部屋に投石して窓を粉砕&チョコを誤爆したのは、学年随一の美少女にしてクールなツンドラ系、相馬広香だった。

そんな変わり者の女の子二人と、空回りしながら奮闘する田村くんが送る、おかしくてちょっと切ないラブコメディー。


故郷の星に、帰ること。
―それが私の進路希望。
松澤小巻、十五歳。
私の家は月にあるから、いつもここからこうして見上げて、うさぎの耳で電波を受信。
両手を伸ばして返事を送信。
迎えのロケットがくるそのときまで、私はここで、待っているだけ。
だけどクラスでたった一人、田村くんだけが、私に話しかけてくれる。
朝のマラソンを待ち伏せしてるし、私をずっと見てるし、私のことを聞きたがる。そんな男の子は田村くんが初めてで、いつも私は困ってしまう。困ってしまう私を見ても、田村くんは、許してくれない。
それが私の田村くん。


相馬広香、十五歳。
みんなみんな、気に食わない。
近寄らないで。話しかけないで。あっちにいって。ほっといて。
友達なんかいらないし、見方なんか死んでもいらない。
とにかくあたしは、一人で居たいの。
だけど田村だけは別。
後ろの席に座ってる、性格の悪そうな意地悪男。あたしの心を覗き見するみたいな、デリカシーゼロの根暗男。
あたしのことを怖がらない、殆どこの世に一人の男。
そんな田村なんかのことが、あたしは気になって仕方が無くて、胸が痛くて苦しくなる。
それが、あたしのばか田村。


「田村くん、私は宇宙人なの」……視線の定まらない電波娘は、うすらぼんやりと空を見ている。
「ちょっと田村!聞いているの!?」……乱暴者のロンリーウルフは、なぜだか俺に食ってかかる。
だけど時々彼女と彼女は、風に溶ける優しい声や、不安そうなかすかな声で、俺の名前をそっと呼ぶのだ。

「ね、田村くん」
「……田村ってば」

そして俺はそんなとき、振り返らずにはいられない。




わたしたちの田村くん (電撃文庫)

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